2009/06/26

ロックが命のKさんは
ギンギンの音楽をこよなく愛する人でした。
エリッククラプトンやジェフベック
リッチー・ブラックモアが来日するときは
必ずコンサートに出掛け
総立ちの中、大音響で響き渡るP.Aに負けじと
イェ〜イなどと叫びながらガッツポーズをしたり
頭を縦に横にフリフリしたりするのが彼の生きがいでした。
そんな彼の仕事は、日本のとあるサーカス団の音響係でした。
裏方の仕事をしながらも、いつか観客から拍手喝采されるのを
願っていたのでした。
ある日のこと、Kさんの勤めるサーカス団に
一人のミュージシャンがコンサートにやってきました。
しかし、彼は怒っていました。
こんなに華やかなサーカス団になんであんな根暗なのがくるんだ!!
会場を沸かすようなロックのミュージシャンが演奏するなら良いが
あんな貧弱なフォークなんか誰が喜ぶっていうんだよ。
明るいフォークならまだしも、あんな暗い音楽のさだまさしなんか
・・・
しかし、周りのスタッフは、みんなすごく楽しみにしていたのでした。
彼は心の中で叫びました。
あ〜あ。生ギター一本で誰が総立ちになる?
あんな根暗な歌で会場は盛り上がるかい?
演奏中にギターを壊すパフォーマンスもないし
ギンギンに会場を沸かせることもない
あんなフォークじゃ、誰ものれないだろう
彼はそう考えていたのでした。
裏方でブツブツ言いながら、仕方なく音響をサポートしました。
やがてコンサートが始まり、さだまさしの歌が会場を満たしたとき
彼の心に変化が起こりました。
たんたんと、そして、たんたんと歌う
その姿に、その歌声に、彼は大いなるエネルギーを感じたのでした。
派手なパフォーマンスや大音量でギンギンにやるのだけが音楽じゃない。
音楽って心のバイブレーションなんだ。
大音量の歌よりもやさしく丁寧な歌声の方が力強い。
彼は会場を一体とさせたさだまさしの歌に本当の音楽をみたのでした。
そしてユーモアのある、あのトーク
会場は一気に盛り上がりました。
そりゃあ、総立ちになる人はいなかった。
こぶしを握り締めてエイエイやる人もいなかった。
でも、それがどうしたっていうんだい。
これだけ心が満たされれば、それで良いじゃないか。
それ以来、彼の音楽性には変化があらわれました。
音楽って人からなにか賞賛してもらう為にやるんじゃなくて
人に与えるものなんだ って。